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STORY

改札前で定期入れを探していると、視界の隅を花びらが過ぎていく。

「……もうそんな季節か」

三月が苦手だ。卒業式帰りの制服や晴れ着を見るたびに、「立派な大人になりましたか?」と問われている気がするから。

あの頃の私へ。仕事は毎日忙しいけれど、立派かどうかはわかりません。ダイエットを宣言しても、忙しさを言い訳にランニングすらも続かない。部屋はすぐ散らかるし。朝は起きれないし。それでも、もうすぐ社会人5年目です。

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来月からの新入社員研修を任されたことを想い、改めて考えこんでしまう。そうか。5年目か。自分が入社した頃を思えば、5年目の先輩はしっかりした大人に見えた。自分が先輩たちと同じような大人になっているとは、正直思えない。

研修のためのミーティングが長引き、今日はちょっとお疲れの家路。こんなに頑張ったのだから、何かおいしいものが食べたい。カラダにもやさしい、ちゃんとしたものが。

冷蔵庫の中身を浮かべながら、試してみたかったレシピを思い出す。大好きな豆乳と、サバ缶の和風スープ。簡単できっとおいしい。健康的。私よ、求めていたのはこれではないか。

帰宅したら、手洗い、うがい、即調理。野菜を切って、煮えたらサバ缶を加える。仕上げは豆乳と味噌。豆乳とサバって、どんなだろう。いつもより丁寧に、器に盛り付けていく。

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今日はちゃんと、ランチョンマットを敷いて。十五分でごちそうができた。うん。生姜の香りがいい感じ。忙しいときこそ、おいしいものを食べなくちゃね。

時間と栄養とおいしさと楽しさと。こういう丁度いい工夫は、五年前ならできなかった。そう思うと、それなりにちゃんとした大人にはなってるんじゃない?
晴れ着を着ていたあの頃の私へ語りかけながら、私は「いただきます」と手を合わせた。

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「丁度いい」は、大人の証拠

fin.

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